家族が突然倒れたり、急に具合が悪くなったりして救急車を呼んだとき、救急隊が到着すると「何を説明すればいいのだろう」と焦ってしまうものです。
救急隊は、傷病者本人から話を聞くだけでなく、そばにいた家族からも重要な情報を確認します。特に、本人が意識を失っていたり、会話が難しかったりする場合には、家族からの情報が大きな手がかりになります。
一方で、家族がすべてを完璧に説明する必要はありません。大切なのは、救急隊が判断するために必要な情報を、分かる範囲で簡潔に伝えることです。
家族がまず伝えてほしいこと
よく「六何の内容」と言われるやつです。詳しくは下で説明しますね。
1.「いつ」「何が起きたのか」
最も重要なのが、症状や事故が起きた時間です。
- いつもと違う状態になった時間
- 症状が始まった時間
- 最後に普段どおりだった時間
- 意識を失った場合、その時間
- 転倒・転落などが起きた時間
- 症状が急に出たのか、徐々に悪くなったのか
正確な時刻が分からなくても、「30分ほど前」「昼食を食べている途中」など、おおよその情報で構いません。
我々は、「徐々になったか?」「突然なったか?」も重視します。
特に、家族が異変に気づく直前まで本人がどのような状態だったかは重要です。
2.家族から見た「普段との違い」
家族だからこそ伝えられる情報があります。
- 普段は普通に話せるのに、今日は会話がおかしい
- 普段は歩けるのに、今日は立てない
- いつもより反応が鈍い
- 顔の片側が下がっているように見える
- いつもと違う呼吸をしている
- これまでにない強い痛みを訴えている
「本人が何と言ったか」だけでなく、家族から見て何がいつもと違うのかを伝えることが大切です。
3.症状がどう変化したか
救急隊が来るまでの経過も伝えます。
- 最初は軽かったが、だんだん悪くなった
- 一度意識を失ったが、今は戻っている
- 痛みが強くなっている
- いったん良くなったが、再び悪化した
- けいれんがあった
- 嘔吐した
- 出血した
「今は大丈夫そうだから」と、途中で起きた重要な症状を省かないようにしましょう。
我々も場数をこなしていますから、事情聴取中でも雰囲気で察知します。
4.持病やこれまでの病気
家族が把握している範囲で、本人の健康状態を伝えます。
- 心臓や脳の病気
- 糖尿病
- 高血圧
- ぜんそく
- 腎臓などの持病
- 過去に脳卒中や心筋梗塞などを起こしたこと
- 最近の入院や手術
すべてを暗記しておく必要はありません。
お薬手帳や診察券、薬の情報があれば、それを救急隊に見せるだけでも役立ちます。
5.普段飲んでいる薬
薬については、家族が覚えている範囲で伝えます。
- 毎日飲んでいる薬
- 最近処方された薬
- 血液を固まりにくくする薬など、重要な薬
- 市販薬
- サプリメント
薬の名前が分からなければ、無理に思い出そうとする必要はありません。
「薬を飲んでいることは分かるが、名前は分からない」と伝え、お薬手帳などを確認してもらえば十分です。
6.アレルギー
家族が知っている場合は、
- 薬のアレルギー
- 食べ物のアレルギー
- その他のアレルギー
- 過去に薬や検査などで強い症状が出たこと
を伝えます。
「○○という薬で発疹が出た」など、具体的に分かれば伝えましょう。
7.救急車を呼んでから何をしたか
救急隊が到着するまでに、
- 心肺蘇生をした
- AEDを使用した
- 薬を飲ませた
- 水分や食べ物を与えた
- 嘔吐した
- 意識が戻った
- 転倒した
などの出来事があれば伝えます。
家族が無理に伝えなくてもいいこと
救急隊を前にすると、家族は「最初から全部説明しなければ」と思いがちです。
しかし、関係のない情報まで長く説明する必要はありません。
特に次のようなことは、救急隊から聞かれなければ、最初から詳しく話さなくても大丈夫です。
- 症状の原因についての家族の推測
- 「たぶん○○の病気だと思う」という自己判断
- 本人の性格や生活についての細かな話
- 以前の出来事を必要以上に詳しく話すこと
- 家族間の事情
- 「病院に行けと言ったのに本人が聞かなかった」などの責任追及につながる話
- 関係があるか分からない細かな情報
もちろん、救急隊から質問された場合は答えてください。
また、分からないことを無理に答える必要もありません。
病院でもそうですが、本人や家族の推測は不要です。むしろ邪魔なくらい。
「いつからか正確には分からない」「薬の名前は分からない」「本人に聞かないと分からない」と、そのまま伝えて大丈夫です。
「たぶん」で埋めない
家族が特に注意したいのは、分からない情報を推測で補わないことです。
例えば、
「朝からだったと思います」
「たぶん薬は飲んでいます」
「おそらく転んだんだと思います」
というように曖昧な情報しかない場合は、そのこと自体を伝えましょう。
我々は本人でも家族でも「多分」という言葉がついた情報は優先順位が下がります。
「分からない」という情報も、救急隊にとっては大切な情報です。
家族は「病名」ではなく「事実」を伝える
家族が「脳梗塞だと思います」「心筋梗塞ではないでしょうか」と病名を推測する必要はありません。
それよりも、
- 「午後2時ごろ、急に右手が動かなくなりました」
- 「いつもは普通に話すのに、言葉が出なくなりました」
- 「10分ほど前に意識を失いました」
- 「胸が痛いと言って、その後、顔色が悪くなりました」
というように、家族が実際に見たこと、聞いたことを伝えるほうが重要です。
救急隊が来たら、家族はこれだけ覚えておけばいい
焦って頭が真っ白になったら、次の項目を順番に伝えれば十分です。
- [ ] いつから?――症状や異変が起きた時間
- [ ] 何が起きた?――家族が見た具体的な変化
- [ ] 今はどう?――現在の症状や意識・呼吸の状態
- [ ] 普段と違う?――家族から見た変化
- [ ] 持病は?――分かる範囲で
- [ ] 薬は?――お薬手帳があれば見せる
- [ ] アレルギーは?――知っていれば伝える
- [ ] その後、何があった?――意識消失、嘔吐、けいれんなど
そして、それ以外のことは、救急隊から質問されたら答えれば大丈夫です。
最初に述べた「六何の内容」と言われるやつです。
救急隊が必要としているのは、家族による「完璧な説明」ではありません。
家族だから分かる「普段の状態」と、異変が起きてから現在までの「事実」です。
緊張してうまく話せなくても、時系列に沿って「いつ、何が起きて、今どうなっているのか」を伝えれば、救急隊が必要な情報をさらに確認してくれます。
家族が落ち着いて情報を伝えることは、傷病者の適切な処置や搬送先の判断にもつながります。分からないことは無理に答えず、分かることを簡潔に伝える――それが、救急隊が到着したときに家族ができる大切な役割です。

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