「なぜ病院が決まらない?」救急車の中で本当に起きていること
「救急車に乗ったのに、なかなか出発しない。」
「病院の前に着いているのに、車内で待たされた。」
ニュースでは、
「受け入れ先が見つからない。」
「救急搬送が長時間に及んだ。」
という言葉を耳にすることがあります。
すると、
「病院は何をしているんだ。」
「救急隊はもっと早く運べないのか。」
そんな疑問を持つ方もいるでしょう。
実は、救急隊は患者さんを乗せた瞬間から、もう一つの大切な仕事を始めています。
それが受け入れ病院の選定です。
かかりつけ病院へ行くとは限らない
「かかりつけ病院へ行けばいいじゃないか。」
そう思われるかもしれません。
しかし、救急搬送では「かかりつけ病院」が正解とは限りません。
例えばA.M.I(急性心筋梗塞)が疑われる傷病者。
対応できない病院へ運んでも、結局また別の病院へ転院することになります。
脳卒中も同じです。
脳神経内外医が不在であれば、十分な治療が受けられないことがあります。
一定の重症かつ緊急性の高い傷病者は救命救急センター。
小児なら小児救急。
妊婦さんなら周産期医療センター。
病気によって、最適な病院は変わるのです。
救急隊は「電話一本」で決めているわけではない
現場で患者さんの状態を確認すると、救急隊は病院へ連絡します。
「〇〇歳男性。突然の胸痛。血圧〇〇。脈拍〇〇。心電図ではST高波を認めます。なお既往は狭心症で近位でニトロ舌下錠処方され服用済み。」
できるだけ短時間で必要な情報を伝えます。
病院側も、
「専門医がいるか。」「手術中ではないか。」「ICUに空きはあるか。」「今受け入れ可能か。」
こうした状況を確認しながら返答します。
だから時間がかかることもあるのです。
「断られた」のではなく「受けられない」
ニュースでは、
「○件断られた。」
という表現が使われることがあります。
しかし現場では、「傷病者さんを見捨てる」という意味ではありません。
例えば、
救命救急センターが満床。手術中で対応できない。専門医が別の緊急手術に入っている。
感染症専用病床しか空いていない。
こうした理由で受け入れが難しい場合があります。
病院も、受け入れた以上は責任を持って治療しなければなりません。
だから「受けたいけれど受けられない」というケースも少なくないのです。
救急隊長の頭の中
私が隊長だった頃は、電話をかけながら専用端末を操作しながら次の病院も考えていました。
もし断られたら次はどこか。端末の表示を部下と確認しながら、循環器ならあそこ。
脳外科ならこちら。
傷病者の容体が悪化したら、もっと高度な医療機関へ変更するべきか。
こうした判断を、搬送中も続けています。
救急車を運転している運転人。
傷病者を処置している隊員。
病院と調整しながら部下隊員の監督指示をしている隊長。
それぞれが別々の役割を担いながら、一人の患者さんを支えているのです。
「まだ決まらないの?」と言われるつらさ
ご家族から、
「まだ病院は決まらないんですか。」
そう聞かれることもありました。
その気持ちは痛いほど分かります。
でも、私たちも一秒でも早く治療を受けてもらいたいのです。
適当に病院を選ぶことはできません。
傷病者にとって、一番適切な医療を受けられる場所を探す。
それも救急隊の大切な仕事なのです。
病院へ着いたら終わりではない
無事に病院へ到着しても、救急隊の仕事は終わりません。
医師や看護師へ、発症した時間、現場での様子、意識の変化、バイタルサイン、実施処置、
搬送中の経過、これらを正確に申し送ります。
この情報があるからこそ、病院は到着直後から治療を始められます。
救急隊は、傷病者を「運ぶ」だけではなく、「医療をつなぐ」役割も担っているのです。
病院選定は隊長権限
ある夜、強い胸痛を訴える男性を搬送しました。
最初に連絡した病院では対応が難しく、次の病院へ。
その間も患者さんの状態は少しずつ悪くなっていきました。
ようやく受け入れが決まり、到着すると医師が待機していて、そのままカテーテル室へ。
後日、その方が元気に退院されたと聞きました。
病院選定の難しさを身に沁みました。
次回予告
救急隊には、現場で思わず苦笑いしてしまうような通報もあれば、背筋が凍るような通報もあります。
長年活動していると、「えっ、そんな理由で119番?」というケースにも数多く遭遇しました。
もちろん笑い話で終わるものもありますが、その裏には救急車の適正利用という大切な問題があります。
次回は、私が実際に経験した忘れられない119番通報をいくつかご紹介しながら、救急車を本当に必要とする人のために私たちが考えていたことをお話しします。
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