元・救急隊長の ~笑えない現場の話~
救急隊として長年働いていると、本当にさまざまな救急現場に出会います。
一刻を争う心肺停止。
交通事故。
大規模な火災。
その一方で、
「えっ、それで119番?」
と思わず耳を疑うような通報もありました。
もちろん、ここでご紹介するのは個人が特定に配慮した内容を変えた事例です。
ですが、どれも現場では実際によくある話です。
「病院の予約時間に遅れる」
ある日の救急現場です。
「寝たきりで動けないので救急車をお願いします。」
現場へ向かうと、患者さんの状態は安定しています。
熱もありません。
呼吸も問題ありません。
血圧も正常です。
詳しくお話を聞くと、
「今日は病院の予約日なんです。」
「家族が仕事で送ってもらえなくて……。」
ということでした。
ホントあるある・・・
そういう時は超事務的に「お気持ちは分かります。ですが、救急車は予約診療へ向かうための移動手段ではありません。ご自分でタクシーなどを使って行ってくださいね。では。」
と軽やかに現場を後にします。
「昨日から痛い」
現場では珍しくない言葉です。
「いつからですか?」
「昨日からです。」
「昨日は受診しましたか?」
「いいえ。」
「どうしてですか?」
「昼間は忙しかったので。」
しかも痛いのは右足首・・・
もちろん、軽やかに「ご自分で順番を待って受診してください。では。」
ただ、昼間に受診できる状態だったにもかかわらず、しかも右足首痛って・・・夜間になって救急車を利用するケースは、医療現場全体に大きな負担をかけてしまいます。
夜間の救急外来は、本来、緊急の患者さんのためにあります。
救急常習者
一番面白かったのは、救急常習者の一人です。
常習というだけあって、私の顔を覚えているみたいで、着くなり「なんやあ?」と突っかかってくるんですね。
若い隊員とかは「まあまあ・・・」と紳士的な対応をするのですが、私は容赦しません。「救急車、呼んでおいて、なんや?とはどういう意味ぢゃ?」と怒ります。
結局、生活保護制度の悪いところで定期的に病院への受診歴がないと、受給できないから酒を飲んで受診する気マンマン。バイタルサイン(血圧)を図ろうにも、「触るな!」と好戦的な態度・・・
もうね、私の「鬼スイッチ」が全入りです!
「病院に急いで行く必要もないみたいだから、帰るわ」
すると、その常習者・・「お前ら税金で食わせてもらってるくせに・・・」
すかさず、同時到着した警察官が「オマエもな・・」
あまりのタイミングの良さに思わず「ブッ」と吹き出してしまいました。
あとからその警察官に聞いたところでは、私以外の救急隊にはそれはそれはエラそうに
ゴネるらしいです。ま、私にそんなことをしたら・・・ですが・・・
そこら辺の学習能力は結構あるなと思いました。
ちなみにその常習者は、後日、自室で亡くなっているのを区役所職員に発見されました。
知る限りでは救急常習者はそういう気の毒な末路をたどる人が多いような気がします。
「救急隊が怒ると思った」
これもよく聞いた言葉です。
「こんなことで呼んだら怒られますよね。」
いいえ。
少なくとも私は、本当に不安で119番した人を怒ったことはありません。
病院で検査した結果、
「異常ありません。」
それなら、それでいいのです。
一番困るのは、「大丈夫だと思っていたら重症だった」というケースです。
救急隊は、命に関わる病気を見逃さないために出場しています。
結果として軽症だったことを責めることはありません。
救急車は「公共の財産」
消防署の救急車は、消防職員のものでも、市役所のものでもありません。
地域のみなさん全員の財産です。
だからこそ、一人ひとりが適切に利用することが大切です。
不要不急の出場が続けば、本当に救急車を必要としている人のもとへ向かうまでに時間がかかることもあります。
実際に、複数の救急車が出場中となり、
隣接市町村に応援出場したこともありました。
すべての地域は、お互いに支え合って救急医療を成り立たせています。
それでも、迷ったら119番してください
ここまで読んで、
「やっぱり救急車は呼びにくい。」
そう感じた方がいるかもしれません。
私がお伝えしたいのは、「救急車を呼ぶな」ということではありません。
「救急車は、本当に必要な時には遠慮なく呼んでください。」
ということです。
命に関わるかもしれない。
そう思った時は、結果を恐れなくて大丈夫です。
私たち救急隊は、その判断をするために現場へ向かいます。
救急隊長として最後に伝えたいこと
私は救急隊長として、多くの命に向き合ってきました。
助かった命。
助けられなかった命。
だからこそ、この記事を書いています。
救急車を呼ぶか迷った時、このシリーズのどこか一つでも思い出していただけたら、それだけで書いた意味があります。
あなた自身のために。
そして、あなたの大切な家族のために。
救急車は、必要な人が、必要な時に使うものです。
そのことだけは、どうか忘れないでください。
シリーズ最終回予告
ここまで「救急要請のウラ」をテーマにお話ししてきました。
最終回では、私が救急隊長として長年現場に立ち続けて感じたこと、そして退職した今だからこそ伝えたい「救急医療への願い」をお話しします。
制度や法律では語れない、人と人とのつながり、命の重み、そして救急隊という仕事の本当の姿――。
シリーズの締めくくりとして、ぜひ最後までお付き合いください。
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