救急車を呼んだとき、家族から「できればいつもの病院に運んでほしい」という希望が出ることがあります。
しかし、救急隊が搬送先を決める際には、単純な距離だけでなく、傷病者の状態に合った治療ができるか、その病院が今受け入れられるか、搬送にどのくらい時間がかかるかなどを総合的に判断します。
消防法に基づき、都道府県ごとに傷病者の搬送・受入れに関する実施基準が定められているため、細かな運用は地域によって異なります。
原則は直近搬送ですが、専用端末を見ながら対応可能な直近病院に搬送します。
病院選定でまず見るのは「傷病者の状態」
救急隊は、現場で傷病者の状態を確認します。
- 意識状態
- 呼吸状態
- 脈拍
- 血圧
- 酸素飽和度などのバイタルサイン
- 痛みや出血の程度
- 麻痺やけいれんなどの症状
- 発症時刻
- 事故や外傷の状況
- その他、緊急性・重症度を判断するための情報
こうした観察結果をもとに、どの程度の医療が必要なのかを判断します。
国の基準では、傷病者の状態に応じて医療機関を分類し、その分類に合った医療機関を選ぶ仕組みが定められています。
「近い病院」が基本とは限らない
近くに病院があっても、そこでは必要な治療ができない場合があります。
例えば、
- 重症で高度な救命処置が必要
- 脳卒中が疑われる
- 心筋梗塞が疑われる
- 重い外傷がある
- 緊急手術が必要と考えられる
- 専門的な治療が必要
といった場合には、距離だけではなく、必要な治療を受けられる医療機関かどうかが重要になります。
一方で、緊急性が高く、まず近い医療機関で処置を開始する必要がある場合など、地域のルールに応じて近隣の医療機関が選ばれることもあります。
病院が「今、受け入れられるか」も重要
救急隊が「この病院が適切」と判断しても、その病院が必ず受け入れられるとは限りません。
例えば、
- 対応できる医師がいない
- 必要な診療科が対応できない
- 病床が埋まっている
- 手術や処置の体制が整っていない
- すでに他の救急患者への対応中
- その他の事情で受け入れができない
といった場合があります。
そのため、救急隊は搬送予定の医療機関に傷病者の状態を伝え、受け入れ可能か確認します。総務省消防庁も、担当科の医師が不在であったり、ベッドが満床であったりする場合には、医療機関から断られることがあると説明しています。
「かかりつけ病院」は伝えていい
家族から救急隊に伝えてほしい情報の一つが、かかりつけ医療機関の有無です。
- いつも通院している病院
- 最近入院していた病院
- 手術を受けた病院
- 特定の病気で継続的に治療を受けている病院
などがあれば伝えましょう。
かかりつけ病院は有効な情報です。状態によっては多少遠くてもそこを第一選択にすることもあります。
ただし、かかりつけ病院への搬送が必ず実現するわけではありません。
傷病者の状態や緊急性、病院の受入状況などを考慮して、別の医療機関が選ばれることがあります。国の選定基準でも、搬送時間や受入可能性に加えて、かかりつけ医療機関の有無などを考慮することが示されています。
家族が伝えると病院選定に役立つ情報
家族は「この病院にしてください」と希望を伝えるだけでなく、病院を選ぶための材料になる情報を伝えることが大切です。
- [ ] かかりつけ病院の名前
- [ ] 何の病気で通院しているか
- [ ] 最近の入院・手術歴
- [ ] 現在治療中の病気
- [ ] 普段飲んでいる薬
- [ ] お薬手帳の有無
- [ ] 症状が始まった時刻
- [ ] 最後に普段どおりだった時刻
- [ ] 家族が見た症状や変化
- [ ] 過去に同じような症状があったか
特に「いつから症状が始まったか」「普段と何が違うか」は、傷病者の状態を判断するうえで重要です。
病院の診察券を見せてもらうと、判断材料になります。ただし、開業医には搬送することは滅多にありません。
家族が「この病院に行きたい」と言ってもいい?
希望を伝えること自体は問題ありません。
例えば、
「いつも○○病院に通っています」
「○○病院で心臓の治療を受けています」
「お薬手帳があります」
など、かかりつけに関する情報を救急隊に伝えましょう。
ただし、搬送先を最終的に決めるのは、傷病者の状態や医療機関の受入状況などを踏まえた救急隊の判断になります。
「家から近いから」「評判がいいから」という理由だけで、希望した病院に搬送されるとは限りません。
希望病院を聞いたら、私は必ず理由を聞きます。合理性があれば搬送考慮もしますが・・・
救急隊が病院を選ぶときのポイント
まとめると、病院選定では主に次のような点が考慮されます。
- 傷病者の重症度・緊急度
- 症状に応じた専門的な治療ができるか
- 必要な診療科・処置・手術などに対応できるか
- 医療機関までの搬送時間
- その医療機関が現在受け入れ可能か
- かかりつけ医療機関があるか
- 地域ごとに定められた搬送・受入れのルール
- そのほか、現場の状況や医療体制
国の指針では、傷病者の観察結果に応じた医療機関の中から、搬送時間が短い医療機関を選ぶことを基本とし、地域の実情やかかりつけ医療機関の有無なども考慮するという考え方が示されています。
「なぜこの病院なの?」と思ったら
家族としては、「もっと近い病院があるのに、なぜ遠い病院へ?」と疑問に感じることもあります。
しかし、救急隊は単純な距離ではなく、その傷病者に必要な医療を、適切なタイミングで受けられる可能性を考えて搬送先を選んでいます。
また、最初に考えていた病院が受け入れできず、別の病院を探すこともあります。
家族にとっては「遠くの病院に運ばれている」ように見えても、傷病者の症状や受入体制を考慮した結果である場合があります。
時々、遠方に搬送したら文句を垂れる家族がいますが、そういう人には遠慮なく「厳重指導」してました。その時点で潰しておかないと他隊の迷惑になり兼ねないので・・・
家族が覚えておきたいこと
救急隊に対して家族がすべきなのは、搬送先の病院を決めることではありません。
家族にしか分からない情報を、できるだけ正確に伝えることです。
- 「いつから悪くなったのか」
- 「普段と何が違うのか」
- 「どんな持病があるのか」
- 「どんな薬を飲んでいるのか」
- 「かかりつけ病院はどこか」
- 「救急隊が来るまでに何が起きたのか」
こうした情報が、救急隊の観察と合わせて病院選定の判断材料になります。
「この病院に運んでほしい」という希望を伝えることより、「この人にはこういう病歴・治療歴があり、今こういう症状が出ている」と正確に伝えることのほうが重要です。
救急隊は、傷病者の状態と地域の医療体制を踏まえ、必要な治療を受けられる医療機関を探します。家族は、その判断に必要な情報を提供する――それが、救急搬送における家族の大切な役割です。
昨今の若い救急隊員は紳士が多いです。懇意にしている医師から聞いたのは「傷病者のいう通りにしておけば問題が起きないという、自分の自信のなさから物分かりの良さが来ていると思う。〇〇さん(筆者)のようにキチンと系統だてた自信を持ってくれたら良いのだけどね~」だそうです。

コメント