「救急車を呼んだのに希望の病院へ行けない?」現場で起きる意外な真実
「119番したんだから希望病院まで運んでくれるんでしょ?」
そう思っている方は少なくありません。
確かに、多くのケースでは救急隊が医療機関へ搬送します。
しかし実際には、救急隊が現場で説明を行い、希望病院以外に搬送するというケースもあります。
「そんなことがあるの?」
と思われるかもしれませんが、これは決して珍しいことではありません。
もちろん、救急隊が勝手に病院を決めているわけではありません。
そこには法律や医学、そして本人の意思が深く関係しています。
救急隊には診断する権限はない
まず知っていただきたいことがあります。
救急隊は医師ではありません。
「これは胃腸炎ですね。」
「風邪ですね。」
「骨折していません。」
このように診断とは、医師が患者の症状や検査結果を総合し、病名や病状を特定する医学的判断なんです。
では救急隊は何をするのか?
本人や家族などの付き添い人の申し述べ、そしてバイタルサインと呼ばれる、循環動態、意識等を総合的に考慮してどの病院に搬送するべきか?を判断しています。
結果として、希望病院と搬送病院が合致することもあります。
反面、全く違う病院への搬送も普通に起こります。
現場から対応可能病院への搬送を「原則搬送」と言います。
「その病院への搬送はできません」と言われることもある
現場では時々こんな場面があります。
救急隊が到着し、詳しく話を聞き、バイタルサインを測定します。
本人や家族から「〇〇病院がかかりつけだから、そこに運んでください。」
我々救急隊は独自の病院受け入れ可否情報を持っています。
そのうえで確認の電話を直接病院にしたうえで搬送します。
ですから、いくらかかりつけでも受け入れ先の病院が断ってきたら、その病院には搬送できません。
また、状況からその病院までは時間が持たないと判断したらやはり直近病院に搬送します。
具体的には心肺停止寸前で、車で30分以上かかる病院にはあまりにリスクが高いので、半ば強制的に
受け入れ可能病院に搬送します。これを緊急事務管理といい、救急活動の法的根拠の側面でもあります。
基本的には、その医療機関でないと絶対に対応できない疾病などでない限り、原則搬送になります。
また、救急搬送は「準委任契約」ともとれるので、本人からの搬送依頼契約が成立する必要があります。従って、本人が同意しない限りは強制連行はできません。例え家族の要請であってもです。
意識がはっきりしていて、自分で判断できる状態であれば、その意思は尊重されます。
もちろん、その前に救急隊は十分な説明を行います。
「あとから悪くなる可能性があります。」
「早めに医療機関を受診してください。」
「症状が変わればすぐ119番してください。」
こうした説明をしたうえで、最終的な意思を確認します。
私は後々のトラブル(よくあるのが言った言わない)を避けるために、音声記録を多用していました。
一番時間がかかる仕事
「搬送しないなら早く帰ればいいじゃないか。」
そう思われる方もいるでしょう。
ところが実際は逆です。
搬送するより時間がかかることもあります。
なぜなら、安全を確認しなければならないからです。
本当に本人は理解しているのか。
家族も納得しているのか。
あとから容体が悪化する危険性はないか。
必要なら医師へ連絡し、指示を受けることもあります。
現場で30分、時には1時間近く説明することも珍しくありません。
ですから、ホンネは救急要請したんだから、サッサと乗れよと・・・
「運ばない」のではなく「運べない」こともある
救急隊には法律上の役割があります。
緊急に医療機関へ搬送する必要がある傷病者を搬送すること。
これが基本です。
一方で、
「予約している病院へ送ってほしい。」
「退院だから迎えに来てほしい。」
「タクシー代がもったいない。」
こうした理由では救急車は利用できません。
滅多にいませんが、そういう方には私は遠慮なく大カミナリを落としました。
救急車は公共の医療資源です。
高齢者のよくある話
ある高齢の男性が言いました。
「救急車を呼ぶほどじゃないと思った。」
家族に勧められて、しぶしぶ119番したそうです。
病院で検査すると心筋梗塞でした。
医師からは、
「あと少し遅かったら危なかった。」
と言われました。
逆に、
「大したことないと思っていた。」
その判断が命取りになることもあります。
救急隊は、そんな「もしも」を何度も見てきました。
だからこそ、迷ったときは相談してほしいのです。
救急隊は敵でも見方でもありません。あくまでも中立です。
現場で厳しいことを言われた経験がある人もいるかもしれません。
ですが、その多くは傷病者を責めたいからではありません。
限られた救急車を、本当に必要な人へ届けるため。
そして目の前の傷病者さんにとって最善の方法を考えているからです。
救急隊は、運ぶことだけが仕事ではありません。
命を守るために、その場で最善の判断を積み重ねているのです。
次回予告
救急隊が現場で必ず確認するものがあります。
それが「飲んでいる薬」と「持病」です。
実は、お薬手帳が1冊あるだけで救命につながることも珍しくありません。
次回は、救急隊が現場で本当に知りたい情報とは何か、そして家族が準備しておくと役立つものについて、実際の経験を交えながらお話しします。
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