―認知症との違いと早期発見・予防のポイント
「最近、人の名前がなかなか思い出せない」「約束を忘れることが増えた」「物忘れが多くなった気がする」。年齢を重ねると、このような変化を感じる人は少なくありません。
こうした症状が単なる加齢による物忘れなのか、それとも認知症の始まりなのか、その中間に位置する状態がMCI(軽度認知障害:Mild Cognitive Impairment)です。
MCIは認知症ではありません。しかし、放置すると認知症へ進行する可能性がある一方で、早期に気づいて生活習慣を見直すことで、進行を遅らせたり、正常な状態に近づいたりする可能性もあります。
要点(最初に知っておきたいこと)
MCI(軽度認知障害)は、正常な加齢と認知症の中間にあたる状態です。
物忘れなどの症状はあるものの、日常生活はほぼ自立して送ることができます。
MCIの人は認知症へ進行するリスクが高い一方、改善する人もいます。
早期発見と生活習慣の改善が、認知症予防につながります。
運動、食事、社会との交流、十分な睡眠、生活習慣病の管理が重要です。
MCIとは何か
MCIは「軽度認知障害」と呼ばれ、認知機能に低下がみられるものの、認知症と診断されるほどではない状態をいいます。
認知機能とは、記憶する力だけではありません。考える力、判断する力、集中する力、言葉を理解する力、計画を立てる力など、日常生活を送るために必要な脳の働き全体を指します。
MCIでは、このうちの一部に低下がみられますが、買い物や食事、着替え、家事、お金の管理などは基本的に自分で行うことができます。
つまり、「少し困ることはあるけれど、まだ普通に生活できる状態」がMCIなのです。
加齢による物忘れとの違い
年齢を重ねれば誰でも物忘れは増えます。
例えば、「昨日の夕食のメニューを忘れた」「俳優の名前が思い出せない」といったことは珍しくありません。
しかし、しばらくすると「ああ、あれだった」と思い出せたり、ヒントがあれば記憶が戻ったりします。
一方、MCIでは出来事そのものを忘れることが増えます。
たとえば、食事の内容ではなく「食事をしたこと自体」を忘れる、約束したことを思い出せない、同じ質問を何度も繰り返すといった変化がみられることがあります。
本人は「最近忘れっぽい」と自覚していることも多く、家族が先に変化に気付く場合もあります。
認知症との違い
認知症は、認知機能の低下によって日常生活に大きな支障が出ている状態です。
料理の手順がわからなくなる、お金の管理ができない、道に迷う、薬を飲み忘れるなど、生活に介助が必要になることがあります。
一方、MCIでは多少の物忘れはあっても、自分で生活を続けることができます。
つまり、「生活への影響」が認知症との大きな違いです。
MCIの原因
MCIの原因は一つではありません。
最も多いのは、認知症の原因として知られるアルツハイマー病の初期変化です。
そのほかにも、脳梗塞などによる血管障害、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病、睡眠不足、うつ病、運動不足、栄養不足など、さまざまな要因が関係しています。
特に高血圧や糖尿病は脳の血管にダメージを与えるため、認知機能低下の危険因子として知られています。
放置するとどうなるのか
MCIだからといって、必ず認知症になるわけではありません。
しかし、認知症へ進行するリスクは健康な高齢者より高いことがわかっています。
一方で、生活習慣の改善や適切な治療によって、認知機能が改善したり、長期間そのまま維持できたりする人もいます。
そのため、MCIは「まだ間に合う段階」ともいわれています。
早期発見が大切な理由
認知症は進行すると、失われた認知機能を元に戻すことは容易ではありません。
しかし、MCIの段階なら進行を遅らせる可能性があります。
最近では、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβを標的とした治療も登場しており、早い段階で診断を受ける重要性が高まっています。
物忘れが気になり始めたら、「年のせい」と決めつけず、早めに医療機関へ相談することが大切です。
MCIを予防・改善する生活習慣
適度な運動
ウォーキングや体操などの有酸素運動は、脳への血流を改善し、認知機能の維持に役立つとされています。
週に数回、30分程度の運動を続けることが勧められます。
バランスの良い食事
魚、野菜、果物、豆類、オリーブオイルなどを多く取り入れた食事は、脳の健康維持に役立つと考えられています。
一方で、塩分や糖分、脂肪分の摂り過ぎには注意が必要です。
人との交流
家族や友人との会話、地域活動、趣味のサークルなど、人との交流は脳への良い刺激になります。
社会とのつながりが少なくなると、認知機能が低下しやすいことが知られています。
脳を使う習慣
読書、日記、囲碁や将棋、楽器演奏、新しいことへの挑戦などは脳を活性化させます。
重要なのは「楽しみながら続けること」です。
睡眠と生活習慣病の管理
睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群は認知機能に悪影響を与えることがあります。
また、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを適切に治療することも、認知症予防には欠かせません。
家族が気を付けたいサイン
家族だからこそ気付ける変化があります。
例えば、同じ話を何度もする、約束を忘れる、料理の味付けが変わる、財布や鍵を頻繁になくす、以前好きだった趣味をやめてしまう、人付き合いを避けるようになるなどです。
こうした変化が続く場合は、本人を責めるのではなく、「一度相談してみようか」と自然に受診を勧めることが大切です。
まとめ
MCI(軽度認知障害)は、正常な加齢と認知症の間にある大切な段階です。物忘れなどの症状はあっても、日常生活はほぼ自立して送ることができます。しかし、そのまま放置すると認知症へ進行する可能性が高まる一方で、早期に気づいて適切な対策を始めれば、進行を遅らせたり、認知機能を維持したりできる可能性があります。
「年齢のせいだから仕方がない」と思い込まず、小さな変化を見逃さないことが何より重要です。適度な運動、バランスの良い食事、人との交流、十分な睡眠、生活習慣病の管理を続けることは、脳の健康を守る基本です。MCIは決して悲観する状態ではなく、「今からできることがある」という前向きなサインと考え、早めの行動につなげることが、認知症予防への第一歩となります。


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