119 救急車 元救急隊長が教える救急現場のウラ その2

救急隊のホンネ

「救急車を呼ぶべき?」迷ったときの判断ポイント

「これって119番してもいいんですか?」

救急隊員だった頃、一番多く受けた質問です。

誰だって救急車を呼ぶのは勇気がいります。

「大げさだと思われないかな。」

「救急隊に怒られないかな。」

「病院へ行ったら軽症だったら恥ずかしい。」

そんな不安を抱えながら119番する人も少なくありません。

結論から言います。

本当に迷うような状況なら、ためらわず119番してください。

救急隊は「重症だった人」だけのために存在しているわけではありません。

病院に連れて行くのが仕事なんです。

救急隊は結果ではなく、その時点で判断する

搬送した結果、

「軽症でした。」

そんなケースは決して珍しくありません。

しかし、それで「救急車を呼ぶ必要はなかった」とは言えません。

例えば突然の胸の痛み。

心筋梗塞の疑いがあります。

ところが病院で詳しく検査すると異常なし。

結果だけ見れば軽症です。

でも、その場では命に関わる病気を否定できなかったのです。

救急隊は未来を知ることはできません。

だから、その時点で考えられる一番危険な病気を想定して行動します。

これは現場の鉄則です。いわゆるオーバートリアージですね。

こんな症状なら迷わず119番

私なら、次のような症状では迷わず救急車を呼びます。

・突然意識を失った
・呼吸が苦しそう、息ができない
・胸から背中に抜けるような痛み(放散痛)が5分以上続く
・片方の手足が動かない
・ろれつが回らない
・突然、経験したことのない激しい頭痛
・大量に出血して止まらない
・けいれんが続いている(概ね5分)
・交通事故や高い場所からの転落

これらは一刻を争う病気やケガの可能性があります。

「少し様子を見よう。」

そう思っている間に、治療のチャンスを逃してしまうこともあります。

高齢者は症状が軽く見えることがある

現場で何度も経験したことがあります。

本人は、

「大丈夫、大丈夫。」

と言っています。

ところが血圧値はそれほど異常ではない。

血中酸素飽和度もそれほど異常数値ではない。

でも、家族は「いつもと違う」と話しています。

何か勘みたいなものが働いて、半ば強引に病院搬送実施!

結果は・・AМI(急性心筋梗塞)でした。心電図でもそれを示す波形でしたから、突然の心停止に備えるように部下に指示しましたが・・・

高齢者は痛みを感じにくかったり、自分の異常をうまく伝えられなかったりします。

だから本人の言葉だけでは判断できないことがあります。

家族の「何かおかしい」という直感は、意外なほど当たるものです。

苦い思い出

 そう言えば、ある現場で高齢男性の息苦しさ主訴の現場に行きました。

 現着すると、その男性がゼイゼイ言いながら歩いてきます。

 瞬時に「マズい!」と部下達とストレチャーに寝るよう言いましたが、「大丈夫だ」と言い張って聞きません。これ、心不全の典型例なんですよね。

 車内収容してるうちに意識朦朧となって、口から薄いピンク色の泡を吹き始めました。

 部下にはよく観察して覚えるように言いました。

 病院到着時には心肺停止で、そのまま・・・でした。

 帰隊してから、部下に「あれが心不全だ。あの場合は絶対に歩かせたらダメなんだけど、あそこまで興奮されたら打つ手無しだわ。家族もなだめられなかったから、そういう人生を歩んできたんだろうね。残念だけど、生きた症例を学ばせてもらったと思うように。」と助言しました。その部下がまさか私を搬送するとは・・・運命を感じます。

子どもの場合は「いつもと違う」が大事

子どもは急激に状態が変化します。

さっきまで元気だったのに、急にぐったりする。

呼びかけへの反応が悪い。

水分も飲めない。

顔色が悪い。

こうした変化があれば、年齢に関係なく早めの相談が必要です。

特に乳幼児は自分で症状を説明できません。

保護者が「何かおかしい」と感じたら、その感覚を大切にしてください。

私も子供が2人いましたが、かかりつけの小児科医には呆れられてました。

少しでもおかしいと思えばすぐに受診しました。

「お父さん、今日は何ですか?」って・・・でも後悔は1ミリもありません。

親って我が子のためなら恥でも何でもかけるんですよ。特に幼い我が子についてはその子の未来がかかっているかも知れないんですから・・・

そのかかりつけ医も「親がおかしいと思えば、何かがおかしい。それを蔑ろにすることは医師として許されない。だからあなたの考え方は正しい。」って述べてました。

基本的には自分で受診すべきなんです。

軽い発熱。

数日前から続いている腰痛。

以前からある肩こり。

慢性的な膝の痛み。

こうした症状は、そもそも命の危険は極めて低いです。

翌日にかかりつけ医を受診したほうが、結果的に適切な治療につながるケースも少なくありません。

大切なのは、「緊急性があるかどうか」です。

迷ったら相談するという方法もある

最近では、救急車を呼ぶか迷ったときに相談できる窓口も整備されています。

有名な「#7119」ですね。ここは24時間体制で看護師が待機していて、相談に乗ってもらえます。

電話で症状を伝えると、看護師などが受診の目安を案内してくれます。

もちろん、その結果として「すぐ119番してください」と案内されることもあります。

一人で悩み続けるより、専門家へ相談するという選択肢を知っておくことも大切です。

私が現場で一番心配だったこと

私が現役時代、一番困ったのは「呼び過ぎ」ではありません。

本当に怖かったのは、「まだ大丈夫」と我慢してしまうことです。

心筋梗塞も脳卒中も、時間との勝負です。

数十分の遅れが、その後の人生を大きく左右することがあります。

私の経験則では、本当に呼んで欲しい人ほど我慢します・・・

よく家族には「何でもっと早く119番しなかったの?」という場面がありました。

だから私は、「迷った末に呼んで異常がなかった人」を責めたことは一度もありません。

結果オーライならそれで良いんです。「なあんだ。」で済めば儲けものです。

しかし、「もっと早く呼んでくれていたら違った未来になっていたかも」と感じた現場は、今でも忘れることができません。

救急車は、必要なときに使うためにあります。

次回予告

「救急車を呼んだら、希望病院には必ず運んでもらえる。」

そう思っている方は少なくありません。

しかし実際には、救急隊が現場で搬送を見合わせるケースや、本人が搬送を断るケースもあります。

では、どのような場合に搬送しないという判断になるのでしょうか。

次回は、現場で実際にあった事例を交えながら、「救急隊は搬送する・しないをどう考えているのか」という、あまり知られていない現場の判断についてお話しします。

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